10.希望への行進 −Farewell Party−(後編)
(3)
戦闘機談義が終わったところで、涼はにわかにもじもじしだした。 怪訝な面持ちで涼を見つめる二人。
「なんだ?どうしたよ?トイレか?」
加藤が、しびれを切らして尋ねる。 すると涼は、抱えていたバッグから包みを取り出すと、おずおずと二人に手渡した。
「うん。あの、これ。」
加藤はガサガサと包みを開けてみる。
「おお!これって……すっげえ!見ろよ、山本っ!ブラックタイガーのキーホルダーだぜ?」
加藤は大声を上げた。 覗き込む山本。
「ええ?なんだよ。おおっ!すっげえな、これー!こんなん、売ってんのかよォ?」
二人の喜び様に涼はニッコリと微笑んで言った。
「へっへ〜。非売品なんだな、これが。超レアなシロモノなんだから!い〜でしょ!超合金・ブラックタイガー。実は南部重工のエンジニアと友達になってさ。高原っていうんだけど、会社の御曹司の幼なじみなんだって。さっきから言ってたコネクションて実は南部重工のことなんだ。」
「なるほど。南部重工かあ。」
二人は揃って頷いた。
「そいつ、いろんな意味でバカでさァ。本業よりこういうの作る方が得意なんだよね。仕事サボっちゃ、こんなん作ってるらしい。」 「なるほど……。へえ。それにしてもこれ、エライ精巧にできてるなァ。大したヤツだ。マジ商売変えた方がいいと思うぜー?」
加藤はキーホルダーをぶら下げて、矯めつ眇めつ真剣に眺めながら、妙な感心の仕方をした。
しかしながら、今日の涼はどうも様子がおかしい。 何やらそわそわしていて、落ち着きがない。
涼は二人の顔を、かわるがわる見ると、ちょっとうつむいて言った。
「あのさ、柄じゃないんだけど……、それ、お守り代わりに持ってて。」
言いながら、涼は真っ赤になった。
「え?くれるの?ホントに?」
もの凄く嬉しそうな二人。
「ウン。高原にムリヤリ頼んで3つ、作ってもらったんだ。」 「へええ。すげえなあ。」
目を輝かせ、興味津々の加藤。
「なあ。高原ってやつ、おまえのカレシ?」
ふと山本が尋ねる。
涼は顔をしかめて、べええっと舌を出した。
「うう……。バカ言わないでよね。カンベンしてよお。でも実は私、昨年、アイツに口説かれたんだよね。」
「ええーっ!?」
加藤と山本は揃って声を上げると身を乗り出した。
「かすりもしないというか、全然タイプじゃないんでお断りしといたんだけど。それに私が13だってわかったら、落ち込んじゃってさ。」
しれッと答える涼。 加藤は爆笑した。
「わはははははははは!おまえ、ソッコーで振ったのか、そいつのこと。キビシイぜ、そりゃ。わははははははは。俺、そいつに同情しちゃう。わははははははは。今度、南部のヤツに教えてやろうぜ。」 「加藤、おまえもヒトが悪いなァ。わははははは。でも俺も言っちゃおう。いひひひひ。」
そもそも二人に喋ってしまった自分が悪いのだが、幼なじみである南部重工の御曹司から弄ばれるであろう高原に、涼は深く同情した。
と――。 突然、涼が悪戯っぽく微笑んで切り出した。
「ね、乾杯、しない?」 「え?カンパイ?」
きょとん、とする二人。 涼はバッグから缶ビール取り出して、ニヤリ――と笑った。
「へへ。こそっと持ってきちゃった。コレ!」 「おおおおっ!やるじゃねえか!」
と加藤。
「俺らの教育がいいからな。くくくくくくっ!いい傾向、いい傾向!」
喉の奥で笑う山本。
「って、おまえ、飲めるのか?」
顔を突き出して尋ねる加藤に、涼は不敵な笑みを浮かべて言った。
「ふふん。アタシを誰だと思ってんの?」 「っしゃあっ!じゃ、飲もうぜ!」
歓声を上げる加藤。
「ほれ。つまみ。」
涼が放り出したのは、これまた渋い珍味の数々。
「く〜っ!気が利くねェ〜。」
嬉しげな加藤。 山本は喜びつつ呆れて呟いた。
「俺らは、オッサンか?」
いけない未青年達の、ささやかなFarewell Partyが始まる。
(4)
「ねえ。」
燥いていた涼が、ふと真顔になって二人の顔を見つめた。
「あん?」 「帰って来てよ。絶対に!!」
やや潤んだ眼差しの涼。
「……。ああ!帰って来るさ!絶対に。」
加藤はニッ、と笑うと、力強く頷いてみせた。
「俺もさ。決まってるだろ!但し条件があるぜ?」
山本も、やさしい微笑みを浮かべつつ、何故か加藤に目配せをする。
「へ?条件?」
きょとん、とする涼に加藤は左の頬を、山本は右の頬を涼の前に突き出した。
「もらうもん、もらっとかないとな。キーホルダーだけじゃ効き目が薄いぜ。な?」 「な、な……って!?」
涼は素っ頓狂な声をあげると、呆れ顔で言い放った。
「んもう!!だからオッサンはイヤなんだよ。」
それから涼は、しょうがないなあ、と言った面持ちで肩をすくめると、差し出された頬――ではなくて、二人の唇に軽いキスを贈った。
「んばっ!?ばっ、ばっ、ばっ!」
涼の予定外の行動に加藤はうろたえ、目を白黒させた。 その加藤の頭を脇に抱え込んで、ガツガツ、ゲンコで殴りながら、山本は嬌声を上げた。
「ひゃあ〜っほうっ!!おっしゃあ〜っ!!ぜえってェ〜帰るぞ〜っ!!」 「待ってるよ!」
涼は涙を浮かべながら、そんな二人を見つめていた。
(5)
西暦2199年10月8日。 地球総司令部・中央地下庭園に選抜されたヤマト乗組員達が集められた。 艦長・沖田の演説。
そして――。 ヤマトへのパレードが始まった。
人々の歓声。 時折、紛れる罵声。
涼もまた、群集の中にいた。 加藤と山本を見送るために。
つと、女性乗組員が列を離れた。 若くない男女が駆け寄る。 恐らく彼女の両親で、別れを告げているのだろう。
気丈に列に戻る女性乗組員。 その顔はまだ、あどけない。
黒地にイエローのラインのブラックタイガー隊の面々がやって来る。 涼は二人を探した。 斜め前の娘が激しく手を振り、何かを放り投げた。 ブラックタイガーのつもりなのか、黄色と黒の虎縞模様のスカーフが、ひらひらと舞った。 きっと、あの中に恋人がいるのだろう。
頭一つ高いのっぽの青年が、それをひょいと掴むと仲間から一斉に頭を叩かれていた。 青年は叩かれながら、そのスカーフを力一杯振って叫んでいる。
「きっと帰るから!」と。
(あ、いた。)
のっぽの青年の頭を率先して叩いている男――加藤だ。 その隣りで笑っている山本。
涼は、身を乗り出して大声を張り上げながら、大きく大きく手を振った。
「か〜とぉ〜お〜っ!!やぁ〜まぁもぉとぉ〜っ!!しっかりねえええ!!私、待ってるからあ〜っ!!待ってるからあ〜っ!!」
加藤と山本、二人とも揃って涼に気がつく。 そして大きく大きく手を振って答える。 その手に、あのキーホルダー。 嬉しそうに微笑む涼。
「帰るぞおーっ!!俺達は使命を果たして必ず、必ずここへ帰って来るぞお〜っ!!」
二人の声は、涼一人に向けられたのか、詰めかけた群集すべてに向けられたのか、わからなかったが、涼は両手を更に大きく振って見送った。
「さよなら……じゃないもんね。だってヤマトは帰って来るんだから。」
涼は込み上げる涙を服の袖でぐいっと拭って顔を上げる。 そして今一度、大きく手を振った。 今度は旅立つ戦士、すべてのために。
人類滅亡まで、あと363日。 最後の希望――宇宙戦艦ヤマトは、遥かなる星イスカンダルに向けて、ついに出発の時を迎えたのである。
10.希望への行進 ー Farewell Party ー (後編) 終了
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